60代からの低栄養予防講座
摂取不足が招くリスク/簡単な対策
はじめに
高齢になると食欲の低下や消化機能の衰え、独居や生活環境の変化などにより、必要な栄養素が不足しがちになります。特に60代以降では、健康を保つためのたんぱく質やビタミン、ミネラルの摂取量が減少する傾向にあります。ここでは、低栄養がもたらすリスクと、今日から取り組める簡単な対策を解説します。
低栄養とは
『低栄養』とは、エネルギーやたんぱく質などの必要な栄養素が不足した状態を指します。厚生労働省の調査でも、65歳以上の高齢者の約10%が低栄養状態にあるとされています。これは、見た目が痩せていなくても、体内の栄養が足りていない『かくれ低栄養』である場合も多く注意が必要です。
低栄養が招く健康リスク
1. 筋力低下と転倒のリスク:
たんぱく質の不足は筋肉量の減少につながり、歩行や立ち上がりが不安定になります。その結果、転倒や骨折のリスクが高まります。
2. 免疫力の低下:
ビタミン・ミネラル不足により、風邪や感染症にかかりやすくなります。回復にも時間がかかるため、生活の質が大きく低下します。
3. 認知機能の低下:
栄養素は脳にも影響します。特にビタミンB群やオメガ3脂肪酸の不足は、認知症のリスクを高める可能性があります。
食事チェックで早期発見
毎日の食事内容を簡単に記録するだけでも、栄養の偏りに気づくきっかけになります。主食・主菜・副菜をバランスよく取り入れているか、たんぱく質源(肉・魚・卵・大豆)を毎食意識しているか確認しましょう。1日2食や、菓子パン・麺類ばかりという食生活が続くと、低栄養に陥る可能性が高くなります。
簡単にできる低栄養対策
● 食事にたんぱく質をプラス:
納豆・ゆで卵・チーズ・豆腐などを手軽に1品加えるだけで、たんぱく質を補えます。
● 飲み物で栄養補給:
牛乳や豆乳、ヨーグルト飲料は栄養価が高く、間食としても有効です。市販の栄養ドリンクも医師のアドバイスを受けながら活用できます。
● やわらか調理で食べやすく:
煮込み・蒸し料理・とろみ付けなど、噛む力が弱い方でも食べやすく、食欲も促進されます。
重要な栄養素別のポイント
高齢期の健康を守るために、特に意識したい栄養素として「たんぱく質」「カルシウム」「ビタミンD」の3つが挙げられます。
これらは骨や筋肉の維持、免疫機能の向上に欠かせない要素であり、日々の食事にうまく取り入れることが大切です。
たんぱく質の働きと摂り方
たんぱく質は筋肉・内臓・皮膚・髪など、身体を構成する重要な成分です。
高齢になると筋肉量が自然と減少していくため、毎食しっかり摂ることが求められます。
特に60代以上の方は、1日あたり体重1kgあたり1.0〜1.2gを目安にするとよいでしょう。
例として:
・朝食:ゆで卵+納豆
・昼食:鶏むね肉の煮物+豆腐の味噌汁
・夕食:焼き魚+枝豆
「食べきれない」という方は、牛乳・ヨーグルト・プロテインドリンクなどで補うのも有効です。
カルシウムの働きと摂り方
カルシウムは骨や歯の主成分であり、骨粗しょう症予防に欠かせません。
特に女性は閉経後に骨密度が急激に低下するため、意識的な摂取が必要です。
カルシウムが多い食品には以下のようなものがあります:
・牛乳・チーズ・ヨーグルト
・小魚(ししゃも・いりこ)
・小松菜・チンゲン菜・豆腐
吸収率を高めるためには、ビタミンDと一緒に摂ることがポイントです。
ビタミンDの働きと摂り方
ビタミンDは、カルシウムの吸収を助ける働きを持つ脂溶性ビタミンです。
骨の形成や、免疫力の維持にも重要な役割を果たします。
不足すると骨がもろくなるだけでなく、風邪や感染症にもかかりやすくなります。
ビタミンDが多く含まれる食品:
・鮭、いわし、さんまなどの脂の多い魚
・きくらげ、しいたけ(干ししいたけは特に豊富)
また、日光を浴びることでも体内でビタミンDが合成されるため、1日15分程度の屋外活動も推奨されます。
簡単にできる!低栄養予防の対策アイデア
簡単にできる!低栄養予防の対策アイデア
● 毎日「たんぱく質チェック」をする:
1日3回の食事で、肉・魚・卵・大豆製品のいずれかが入っているかを確認するだけでも、たんぱく質不足を防げます。朝食に納豆や卵を加えるだけでも効果的です。
● 「色のある食材」を1品加える:
野菜や海藻など、緑・赤・黄の色のある食材を毎食1品加えることを意識すると、ビタミン・ミネラルが自然に摂取できます。例えば、小松菜のおひたしやトマトのスライスなど。
● 買い物が負担な日は「備蓄食」を活用:
サバ缶・豆の水煮・パウチのお惣菜など、ストックしておけば調理なしでもすぐに栄養を補えます。温めるだけで食べられるレトルト食品も有効です。
● 一人で食べない工夫をする:
一緒に食べる人がいると食欲が出やすくなります。近所の集会所での食事会や、オンライン通話での「リモートごはん」なども気軽な手段です。
● 「ながら食べ」を避け、食事に集中:
テレビを見ながらやスマホを操作しながらの食事は、噛む回数が減り、満腹感を感じにくくなります。ゆっくり噛んで味わうことで、消化も良くなります。
● 週に1回は「おかずを2倍の日」を作る:
普段よりおかずの品数を増やす日を週1回作ることで、栄養バランスが自然と整います。例えば、「焼き魚+煮物+サラダ+味噌汁」などの和定食スタイル。
● 「食べられない理由」をメモして対策:
お腹が空かない、硬くて食べづらい、作るのが面倒…など、食べられない理由をメモしておけば、具体的な対策が見つけやすくなります。医師や管理栄養士にも相談しやすくなります。
おわりに
高齢者の低栄養予防は、単に“食べる量”を増やすことだけでなく、
“何をどう食べるか”がとても大切です。
栄養バランスを意識した食生活に少しずつシフトすることで、健康寿命の延伸にもつながります。
家族や医療・福祉の専門家の協力も得ながら、楽しみながら実践していきましょう。